ほぼ全ての日本人が誤解しているマイケルの気持ち

マイケル・ジャクソンのヒット曲に”Beat it”という曲があります。ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。邦題は「今夜はビートイット」といい、その無邪気な題名の脈絡のなさは「あの頃は日本もまだ景気が良かったんだなあ」と当時の牧歌的な世相を彷彿とさせます。

その頃小学生だった私は、日本中の若者が熱狂する様子を実際に目の当たりにしました。何せギネス認定、世界で一番売れたアルバムです。「歌詞カードを見ながら英語で歌ってみたい!」「英語はよく分からないけど、日本語訳を見てとにかく言ってることを理解したい!」と、みんなが夢中になりました。競ってMTVの映像をチェックしては、遠いアメリカに思いを馳せたものです。

さて、この”Beat it”ですが、ライナーの日本語訳には「殴れ」という意味のことが書いてあったと思います。ところが、これは大きな間違いです。


確かに「殴れ」でも何とか意味が通りそうなんですが、それだとちょっと無理がある感じがするんです。「外人の文脈ってこうなんだ」とか「ああ、マイケルの感覚はやっぱりぶっとんでるんだな」と思わないでください。本当は「ずらかれ(逃げろ)」「うせろ」なんです。

彼が言いたかったことはこうです。

「男らしくなりたいって思ってるなら、暴力なんかやめて今は逃げるんだ。それが本当の勇気だ。」

私は大人になってからこの事実を知って驚いたとともに、自分の英語力のなさに敗北感を覚えました。きっと私に近い世代の日本人は、ほとんどの人が「殴れ」で理解したでしょう。なぜなら、世界で一番売れたアルバムの日本語訳にそう書いてあったからです。そして彼の意図を誤解したまま、人生を終えて行くでしょう。マイケル・ジャクソンがこの世を去ってしまった今、「ああ、マイケルってやっぱり良かったよね」という会話をしたところで、彼の真のメッセージを受け取れていなかったなら、それは本当に残念なことです。

翻訳した人は、”Beat it”が「にげろ」という意味で使われることを知らなかったのでしょう。きっと文脈に違和感を感じながら、苦労して訳したに違いありません。何と言っても最も大事なタイトルの部分ですから。日本語の「大丈夫です」も、近年 ”No thank you” の意味で使われることの方が多いそうですが、それを”OK”と訳してしまったのと同じ失敗かもしれません。これが交渉の場であったとしたら、大変なことになります。

世界一のアルバムの翻訳作業ですから、それなりのプロが選ばれたはずです。それが間違ったまま流通に乗っていることを考えれば、普段我々が目にしている翻訳物などは完全には信用しない方が良さそうです。もし、翻訳した人がこの慣用句の意味を知っていて、邦題が「今夜はビートイット」ではなく「今はずらかれ」だったらどうなっていたでしょうか。もしかすると「ずらかる」のは相手の方で、やはりメッセージは伝わらなかったのかもしれません。

ここで私が言いたいのは、これって日本の英語教育に問題があるということです。私達は最低でも中高6年間(最近は小学校でもやりますね)英語を学びますが、学校の英語教育の優先順位に問題があると思うのです。英語はコミュニケーションのためのツールなのに、「お勉強」にしてしまっている。その責任は非常に大きいと思います。

確かなことは、日本の英語教育でサリンジャーは教えてもらえても、”Beat it”の意味は教えてもらえないということです。

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